縦型ショートドラマレーベル「T36」について

●「T36」とは?

「T36」は若手クリエイター中心の縦型ショートドラマコンテンツスタジオ。「T」はTHINGMEDIA、光より速い粒子であるTachyon(タキオン)を意味し、「光よりも速くミッションを達成する」という意図が込められている。「36」はSNSで良質なコンテンツとされる「36%の視聴継続率」を表している。



今、縦型ショートドラマがアツい!

● 縦型ショートドラマ関連の国内ニュース

2024.03.29

Bytedance株式会社:TikTok、KDDIと連携し縦型短編映画・ドラマクリエイターを支援するハッシュタグチャレンジ「#ショートフィルム Supported by au」を開催!


2024.04.17

株式会社ハイボール:縦型ショートドラマアプリ「SWIPEDRAMA」が今夏リリース予定 - NEXT TikTokを目指す!


2024.06.24

株式会社Minto:Minto、縦型ショートドラマプラットフォームを2024年中にリリース。NTTドコモ・スタジオ&ライブ、吉本興業グループのFANYと共同制作


2024.07.01

株式会社Spoon Radio Japan:Spoon Radioが、ショートドラマコンテンツアプリ「Vigloo」を7月1日(月)にローンチ


2024.07.12

日本テレビ放送網株式会社:株式会社GOKKOと資本業務提携〜Z世代向けメディアミックスコンテンツ創出を加速するため縦型ショートドラマ領域を強化〜



縦型ショートドラマは参入障壁が高くまだまだクリエイターが出揃っていない

佐藤 縦型ショートドラマの世界市場は2023年時点で約55億ドル程度だったのが、2029年にはその10倍の556億ドルにまで成長するという予想を市場調査会社が出しています。また、国内でも縦型ショートドラマに関連したニュースが相次ぐなど、非常に注目を集めているジャンルです。そこで映像ベンチャー企業としては、これから伸びる可能性のある市場に参入して、どんどんチャレンジすべきだと考えています。

縦型ショート動画自体はすでに本格的に流行している状態ですが、縦型ショートドラマは参入障壁が高いのか、まだまだクリエイターが出揃っていない印象を受けます。であれば、「その参入障壁さえクリアできば、いけるんじゃないか?」と考え、今回THINGMEDIAが縦型ショートドラマ市場に参入したという経緯があります。

「T36」は、2024年6月から毎月6作品のオリジナル縦型ショートドラマをTikTokやYouTubeショートで公開しているショートドラマレーベルです。2024年7月半ば時点で10作品ほどあり、各作品5話ずつあるので、合計50話ほどが現在公開されています。



● T36の発足〜現在に至るまで


プロジェクトに苦戦するメンバーたちのリアルな内容が書かれた佐藤さんのnote。







SNSネイティブの若手クリエイティブチーム

「自分たちが常に見ているメディアでなければ、見ている人たちに向ける感覚はわからない」という理由から、T36のクリエイティブチームは、久保田さん、鈴木さんを含むSNSネイティブにあたる20代若手メンバーのみで構成されている。現状ではこの6人ですべての工程を分担している。



メインとなるターゲット層

プラットフォームによってターゲット層も伸びやすいジャンルも異なる

久保田 縦型ショートドラマのメインターゲットは、自分たちのTikTokチャンネルのインサイトなどを見る限りでは10代後半〜20代前半が多いです。ただ、YouTubeショートになるとそれ以上の年齢の男性が多かったりもするので、プラットフォームによってターゲット層も伸びやすいジャンルも異なってきます。なので、企画段階から「TikTokのこの層に向けて作っていこう」といった議論ができるといいと思いますね。

テーマとしては、TikTokなら「恋愛」が強く、YouTubeショートだと「転職」や「結婚」などが強いです。プラットフォームに関係なく強いのは「不倫」ですね。自分の仮想ライバルみたいなものを作りやすいから、イラッとしやすく、スカッとしやすくて次を見たくなっちゃうのかなと。



これまでに投稿した作品

2024年7月16日時点で10作品の縦型ショートドラマを投稿し、TikTokとYouTubeの総再生回数は約76万回+外部脚本の演出12.9万回、総フォロワー数は1,290人となっている。







縦型ショートドラマ制作の裏側

ワークフロー

「現状の制作工程は左図のような工程になりますが、縦型ショートドラマの場合は企画や脚本をもっと量産できるよう仕組み化を進めないといけないなと考えています」と久保田さん。



脚本

脚本は1話あたり見開き1ページ〜1ページ半程度で、尺は約1分。冒頭5秒までに視聴者が気になるポイントを作るなど工夫をしている。「縦型ショートドラマのフォーマットとして意識していることは、ファーストカットを1秒未満にして、5秒までに4カットくらい切り替わるようにしています。情報量の多さや濃さが現在流行しているフォーマットで、それがパッと目を引くひとつの仕組みに繋がっているのかなと思います」と久保田さん。



●『不倫予告』第1話 脚本




使用機材

基本的に撮影は2カメ体制。使用機材はソニーFX3(左)、ソニーα7Ⅲ(右)。その他機材としては、ピンマイク、ガンマイク、三脚などが必要となる。

● カメラ(2カメ体制)



● ピンマイク



● ガンマイク



● 三脚




香盤

撮影スケジュールの一例。1話あたり1時間で撮影し、一気に5話分を撮影。共通したキャストがいる2作品を同日の午前・午後で撮影するなど撮影効率を上げるための工夫をしている。




やってみて感じた縦型ショートドラマの難しさ

これまでやってきた16:9の戦場は“美術館的”縦型が主戦場のTikTokは“商店街的”

久保田 いざ制作してみると、縦型が難しいのではなく「ドラマ自体が参入障壁として高いんだな」と実感しています。正直、始める前までは「ショートドラマなら伸びるだろう」という認識だったんです。しかし、実際にやってみると、僕らはいいと思ったのに再生回数が伸びなかったり、自分たちで書いた脚本が編集で繋がらなかったり、イマジナリーラインのようなお作法的な部分が踏襲できていなかったりなど、いろいろな難しさを感じているところです。また、作品が横並びになって、自分の担当作だけの再生数が伸び悩んでいると、数字への責任を感じたりもします。でも、「我々の強みってここなんじゃないか?」という部分が少しずつ見え始めてきてもいるので、未来は明るいという可能性を信じて今は走っています。

鈴木 僕らはこれまでCMや映画、ドラマなど16:9の戦場で戦ってきましたが、“美術館的”な面があるなと。要は、そのサイズの映像がテレビで流れると、つい見てしまうことがあるじゃないですか。テレビだとチャンネル数もせいぜい10チャンネルちょっとしかないので目移りしづらいし。一方、縦型が主戦場のTikTokは“商店街的”だなと思うんです。たくさんの商品が並んでいてすぐ他のものに目移りするので、作品を作るというよりは“商売感”があるというか。世の中の流行を取り入れて足し算・引き算やパズルをして市場に受けるものを作っていくというのが、今までの映像を作る職人気質の感覚とはまた異なる性質だと感じています。






T36として大事にしていること

高速PDCAクリエイター集団になるために

挽回するチャンスがすぐに巡ってくるのがT36の制作サイクルの最も面白いところ

佐藤 T36として大事にしていることとしては、まず「高速PDCAクリエイター集団であること」。次に、「常識を捨て新たな常識を築くこと」。加えて、「全体尺の60%以上視聴される面白い作品を作ること」。そして、「結果を出すまでやりぬくこと」です。これらに関しては協議した結果ではなく、僕が勝手に決めた戦略なんですが、ふたりとしてはどうですか?

久保田 PDCAについてはその通りだなと思います。ただ、プロダクションにいると映像を作ること自体は得意になるんですが、分析という視点はあまり養われない部分なので、実際にやってみるとものすごく難しいですね。視聴者がそのSNSにおいて何を求めているのかを客観視して企画を練り、作ったものが面白いか、面白くないか、なぜ伸びたのか、なぜ伸びていないのかを、根拠に基づいて議論ができるチームが必要だなと思います。また、自分の企画がウケなかったときに、それをちゃんと食らって次に活かせる人たちがいいPDCAクリエイター集団になるのかなと。2週間後にはそれを挽回できるチャンスがすぐ待ち構えているので、それを活かす以外ないですし。

鈴木 終わりじゃないもんね。機会を待たずして次を作っていけるのがT36の制作サイクルの最も面白いところです。普通であれば次の仕事を待たないといけないので。実際にやってみると「芸術を作ってるんじゃねえ、スポーツやってんだよ!」という感覚なんです。とにかくボコボコになるんですよ。ディレクターとして今までMVやCMをやってきて正解とされたことがここでは正解じゃなかったり、逆にそこでやっちゃいけなかったことをやることで再生回数が伸びたり。T36にはもうひとりディレクターがいるんですが、僕に染み込んでいるお作法的なものが、彼には染み込んでいないんです。でも、彼のほうがうまいこと縦型ショートドラマのニーズを掴んでいたり、順応していたりと、そういう部分が「頭で考えるよりも手を動かせ」という感じで、本当にスポーツのようだなと思います。






常識を捨て新たな常識を築く

“いい映像”がそこまで求められていないことを現実として突きつけられた

久保田 自分たちがショートドラマをやってみて、綺麗な画やアングル、いい編集やいい色といった、自分たちの常識だった“いい映像”がそこまで求められていないことを現実として突きつけられました。それよりも、キーワードやメッセージといった、地上波のドラマなどでもポイントになるところのほうが、しっかりと求められていたりします。捨てなきゃいけないと思っていたものが実はめちゃくちゃ必要で、持っていなきゃいけないと思っていたものは逆に捨ててよかったんだ、という発見がありましたね。

鈴木 縦型の世界を一言で説明すると、「気をつけろ、ここは新世界だ」です(笑)。先にも伝えた通り、作品作りではなく、“商売”に近い。どうやったら人を引きつけられるかという心理学とかのほうが大事かもしれません。よくここで久保田と喧嘩をするんですが、僕個人としてはいい映像は必要ないのではなく、根本にある押さえるべきものの先にあるオプションだと捉えています。今、世に出回っているショートドラマの撮り方は誰でも真似できるものでもあるんです。だからこそ、これまで映像をやってきた人間が、どのように自分たちしか持っていないものをミックスして他と差別化するかが大事だと思っています。

久保田 このへんの話については制作中もよく喧嘩していました(笑)。

鈴木 とにかく嫌だったんですよね。自分がいいと思った画をカットするたびに心が痛むんですよ。それが新しいものを作っていくリアルというか。

佐藤 それこそが痛みであり、挑戦するとはそういうことなんです。






尺全体の60%以上視聴されるコンテンツを作る

1分のうち36秒間見てもらうための期待感を煽り続けることが大事

久保田 60%以上視聴されるコンテンツを作るためには“脳汁”、つまり視聴者の感情に訴えかけることが鍵だと思っています。情報の密度やコアメッセージなど、パッと流れてくる情報に対して、スワイプする手が止まるのは無意識下での判断だと思うんです。そのためには視聴者に対して期待感を煽り続けなければ、1分間のうちの60%である36秒間を見てもらうのは難しいんじゃないかなと。そのための仕組みとして、SEやカット編集などが“脳汁ポイント”に繋がるんじゃないかと考えています。



“脳汁”を紐解くと…

「冒頭の数秒間で大きな割合を占める“感情”や”共感”をどれだけ視聴者に訴えかけられるかが勝負だと思っています」と鈴木さん。




結果を出すまでやりぬくための目標とミッション

最終的な目標はヒットしたコンテンツでしっかりと仕事ができている状態になること

佐藤 チーム目標を段階に分けると、まずは「縦型ショートドラマ制作に意欲的なチーム」を作ること。ここまでは現状ですでにできています。次に、「ヒット作品を生む縦型ショートドラマ集団」になること。ここまでいくと、自分たちの作っているものが「ヒットしているな」と実感できていることになります。そして、最終的に目指すのは「ヒットしたコンテンツでしっかりと仕事ができている」状態です。

作ることにただ特化してきた何者でもない人間が、世の中に向けて作品を出すとなれば、「まずは3カ月くらいで100万再生は達成しないと次に行けないよ」という意味で、「3カ月で総再生数100万回の突破」というミッションを課しました。1カ月程度経過した7月16日時点ではTikTokとYouTubeの総再生数が76万回、外部脚本の演出が12.9万回なので、達成までもう少しですね。

久保田 当初は、正直余裕だろうと思っていましたが、そう簡単なことではなくて。こうしてようやく数字として目標到達が見えてきて、やっと「まだまだ行けるっス」みたいな軽口が言える余裕が出てきたなという感じです。

鈴木 今一番流行っている人たちの“その先”を見通して動いて、「どうやって生き延びていくのか」というビジョンをもっと考えなければいけないなと感じています。まだまだ課題は山積みなので、しっかりと結果を出すまでやりぬきたいと思っています。



THINGMEDIAの目指すべき未来

培ってきた能力・知見・技術を活かすことで世界に挑む偉大な会社になれると信じている

佐藤 この業界に16〜17年ほどいる立場からすると、映像制作会社は今がチャンスであり、ピンチでもあります。AIの台頭によって、もう1年も経てば制作シーンの景色はガラリと変わるだろうし、AIを使いこなすクリエイターもたくさん出てくると思います。今は作業工程をどれだけ楽にできるのかが目立っていますが、進化とともに「どれだけ良くしようか」に変わってくると、よりシビアな状態になると思うんですよね。そうなると、プロと素人の境界線もどんどん曖昧になってきます。そのあたりをプロデュースサイドでしっかりと考えるか考えないかで、ビジネスの明暗を分けることになるかと思います。だから、好きではないものでも適応していくリスクを取るほうが、個人的にはいいと思っています。根っこにある「映像っていいよな」という気持ちと培ってきた映像制作能力を活用して、現状に甘んじず、いかにリスクテイクできるか、挑めるかがこれからの映像業界で生き残るためのポイントになると考えています。

 THINGMEDIAとしては、映像ベンチャーとして6年間やってきて、“Goodな会社”にはある程度近づけたという自負があります。ただ、そこで満足せずに、偉大な、“Greatな会社”になるべきですし、そこを目指すべきだとも思っています。偉大な会社とは、日本を代表する会社であり、日本に限らず世界にも果敢に挑む会社です。日本の映像コンテンツは世界に対して果敢に挑んでいるので、そこに対して僕ら自身が映像制作で培ってきた能力・知見・技術をしっかりと活かすことができれば、THINGMEDIAも世界に果敢に挑む映像コンテンツスタジオになれるんじゃないかと信じています。